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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)1287号 判決

上告人

福村末太郎

右訴訟代理人

古荘義信

被上告人

滝川市

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人古荘義信の上告理由について。

所論は、原審において上告人が、滞納処分としてなされる随意契約においては買受人の代金納付までは滞納税金は消滅せず、従つて右代金納付前に滞納者が滞納税金を完納した場合はこれにより滞納税金が消滅して滞納処分は取り消さなければならないと主張したのに対して、被上告人は、随意契約においては売却決定によつて滞納税金が消滅するのであるからその後になされた滞納税金の弁済提供は不適法であると主張しているのであり、原審としては、先ず滞納税金の消滅時期について判断することを要するのにも拘らず、これをなさず、却つて上告人から滞納税金の弁済提供を受けた訴外田村一雄に滞納税金受領の権限がなかつたから、右弁済提供は不適法である旨を判断したのみで上告人の本訴請求を棄却したのは、先決的争点に対する判断を遺脱した違法があるという。

よつて案ずるに、被上告人(当時滝川町)が昭和二八年九月一八月上告人に対してその所有の本件家屋を町税滞納処分として差押えた上、昭和三〇年一二月五日これを公売に付したが、見積価格に達しなかつたので、随意契約により同年同月八日代金一五万円代金納付期限を同年同月二〇日と定めて訴外藤井小市に売却したことおよび上告人が右代金納付前である同年同月一五日代理人古荘義信を通じて被上告人の徴税吏員である訴外田村一雄に対し滞納税金の概算額金一万五〇〇〇円を持参してこれを支払うべき旨申し入れてその受領を催告したが、訴外田村はすでに売却決定のなされた後であることを理由としてその受領を拒絶したことは、原審の確定するところであり、また、原審が、訴外田村が一般の税務職員として行う賦課のための調査、滞納処分の執行ならびに徴税吏員として行う納期限変更告知書および督促状の発付等の権限を有していたことは認められるとしても、同訴外人が金銭出納に関する権限ひいては滞納税金を受領すべき権限を有していたことを認めるに足る証拠はないとし、従つて同訴外人に対する滞納税金の弁済提供は違法ではないから、これが違法になされたことを前提とする本訴請求は理由がないとしてこれを排斥していることは論旨のとおりである。

しかしながら、本件随意契約による売却決定は、昭和三四年四月二〇日法律一四七号による改正前の国税徴収法施行当時になされたものであり、同法に基づく国税滞納処分において随意契約による売却決定がなされたときは、目的物の所有権移転の時期について特に定めのないかぎり、買受人はその後買受代金納付期日までに代金を納付しないことを解除条件として目的物の所有権を取得するものであつて、売却決定後右代金納付前に滞納者が滞納税金を完納すると否とは買受人の右所有権取得になんら影響するものではなく、滞納税金完納の事実があつたからといつてこれを以て右売却決定取消の理由とはなし得ないものと解すべきであり、しかして、当時施行の地方税法に基づく地方税滞納処分についても、同法が国税徴収法の規定による滞納処分の例によつてこれを処分すべき旨定めている趣旨に照らして、同様に解するのを相当とする。

そして、前記原審確定事実によれば、上告人が滞納税金を提供した当時すでに本件家屋については地方税滞納処分による随意契約がなされ訴外藤井小市を買受人として売却決定がなされていたというのであるから、上告人側において前記解除条件の成就すなわち買受代金が納付期日までに納付されなかつたことの主張立証をしない以上、訴外藤井小市において本件家屋の所有権を取得したものといわざるを得ない(のみならず、訴外藤井が買受代金納付期日前である昭和三〇年一二月一六日被上告人に対して買受代金を納付したことは、上告人が自らこれを主張し、被上告人もまたこれを争わないところである。)。然りとすれば、右売却決定後に上告人のなした滞納税金の弁済提供がなされたとしても、本件売却決定を取り消すべき理由は存しないものというべきである。従つて、随意契約による売却決定後買受代金納付前に滞納税金が消滅したときは右売却決定が取り消されるべきものであることを前提とする上告人の本訴請求を理由なしとして棄却した原判決は、正当である。

それ故、論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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